パウル・ライハウゼン著、今泉みね子訳『ネコの行動学』、復刻どうぶつ社、丸善出版、2017年
ネコの行動学
今は猫ブームらしい。日本では犬の飼育数が減り、猫の飼育数は伸びているとのことだ。
我が家でも猫を飼うようになって、猫の生態について知りたいと思って調べるのだが、ネットや動画サイトなどで調べても、あまり専門的な情報がない。猫好きな人たちが書いた猫の飼い方のようなものだったり、「獣医監修」と銘打ってあるがどうも専門性に欠けるような当たり障りのないページだったり(必ず最後には動物病院に連れて行きましょうと書いてある)。本もやさしい猫の飼い方のようなソフトな本ばかりで全くもの足りない。
そこで、いろいろ調べてたどり着いたのが、本書である。
本書は、パウル・ライハウゼン(Paul Leyhausen)という動物行動学者がかなり昔に書いた本である。ライハウゼンは、マックスプランク行動生理学研究所でネコ科の動物の研究を指揮した研究者であり、イエネコから野生のネコ科動物まで膨大な観測や実験による研究を行った。
本書は、400ページ近い厚い本であるが、上下2段組の構成で文字がびっしり入っていてかなりの読み応えである。写真や図もとても多く掲載されていて、ネコがどのよう行動をとるのかよくわかる。
当然、内容もそんじょそこらの「やさしい猫の飼い方」的なものではなく、長年の研究やその学術分野の膨大な文献からの引用によるネコの行動について専門的に解説されている。
驚くのは、本書の半分が獲物捕獲についての章で構成されていることである。これを見ただけで「ネコはやはり野性の動物なのであるな」ということをあらためて感じさせてくれる。ネコがどのように獲物を捕まえるかについて事細かに記述されている。
例えば、飼っている猫が獲物を捕まえて(今のイエネコではもうないだろうが、昔はネズミやトカゲやコウモリなんかを捕まえてきていた)、飼い主のところに持ってくることがある。これは猫が自慢したいからなどと言われることがあるが、この行動は親猫が子猫に獲物を持ってきてやる行動とのことだ。つまり、猫にとってみれば、人間は子猫の代用なのである。とすると、人間がとるべき行動は、猫を褒めてやることではなく、持ってきた獲物の方に興味を示してやることが重要なのだ。
また、家で飼っている猫にとって、人間はネコ的な付き合いができる程度には「同種仲間」だが、おとな特有の反応を引き起こすほどには「ネコ的でない」存在らしい。だから、家の中でいつも同じ人間と一緒にいると、さほどストレスを感じなくなり、ネコ同士では抑えられて出てこない「子供的衝動的行為」が出現するとのこと。YouTubeなんかでも、野良猫を保護して飼ってやるとすっかり顔つきが変わってしまい、ゴロニャーゴとデレデレのネコになってしまうという動画をよくみるが、これも子供のころの感覚が表出した結果なのだろう。
他にも、闘争、防御、なわばり、性行動から子育てなど、ネコのあらゆる行動が専門的に書かれている。猫好きで真面目に猫を知りたい人にはおすすめの本である。
読書メモ
- ネコのひげは獲物の手並みに順も感知できる
- ネコパンチはもっとも重要な防御手段
- ネコには服従の姿勢やそれに対する攻撃を抑制する機構はない
- 優位に立つ側は劣位の立ち去るネコを追わない→威嚇姿勢は硬直しているから
- 動物行動のハーヴァードの法則→厳しくコントロールされた条件のもとでは、そのときちょうど思いついたように行動する