【書籍】風土 人間学的考察

和辻哲郎『風土 人間学的考察』(ワイド版岩波文庫)、岩波書店、1991年

風土によって人間の気質、文化、宗教などを分類考察した本。著者は、モンスーン、沙漠、牧場の三つに分類している。

モンスーンは、湿潤によりもたらされる大雨、暴風、洪水、旱魃など自然の暴威により、人々は受容的・忍従的になると言い、感情の横溢による人生の種々相の洞察がある。それにより古代インドでは仏教をはじめ種々の宗教が誕生した。一方中国、日本もモンスーンであるが、インドのそれとは少し異なり、中国においては無感動性であり、単調にして空漠であり、また沙漠との結合により非服従的であるという。日本では、熱帯的・寒帯的にあきらめでありつつも反抗において変化を通じて気短に辛抱する忍従気質であると同時に、季節的・突発的に繰り返し行く忍従の各瞬間に突発的な忍従を蔵する(きれいにあきらめる)と考察する。

中東にみられる沙漠においては、乾燥・乾きが人と世界とのかかわりを対抗的・戦闘的関係にさせるという。沙漠においては自然は死を意味し、自然は神たりえず、人間から人格神を生み出すにいたる。各部族が井戸を守るため団結と共同体を生み出し、これが神への絶対服従と多民族に対する戦闘へとつながる。キリスト、ユダヤ、イスラムなど沙漠起源の宗教もなるほど納得がいく。

ヨーロッパは牧場である。これは、湿潤と乾燥との結合により生み出される風土である。夏草(雑草)は夏の乾燥のため茂らず、冬草は冬の湿潤のため育つ。人間にとっては、従順な土地となり自然との闘いはない。農業労働が安易で自然は人間に対して温順である。ヨーロッパでも地中海沿岸のギリシアでは、裸で競技できる気候であり、なるほど像など皆裸であることはうなずける。また、海洋進出から海賊など武士への転化からポリスの形成、奴隷制度により哲学や文化の発展へつながる考察も面白い。

一方、ドイツなど北部ヨーロッパにおいては、冬温度が低いが、湿気がないため、冬は「冷たさ」であり、日本のような「寒さ」ではないという。私は、仕事で真冬のドイツを何度も訪れたことがあるが、その時感じたのがまさにこれであり、著者もまったく同じことを考えていたのかと、思わず拍手するほどの共感を得た。ドイツの冬は氷点下ほどの気温になるのだが、昼間郊外の森など散歩していても、なぜだか寒いという感じがしないのである。身が引き締まる冷たさという感じでかえって気持ちがよいのだ。いずれにしても、冬の陰鬱さというものがあるが、それが人間の陰鬱さへとつながり、深さと抽象へ文化や哲学を変遷させる。

また、そんなヨーロッパと日本との比較において、家の内外の考察が面白い。ヨーロッパでは、部屋というものが個人のテリトリーであるのに対して、日本では家というのが領域の単位となる。ヨーロッパでは、個人の部屋から出るとアパートメントの廊下や公園や道路などは公共の場となり、それが城壁や濠まで続くことになる。一方日本では、家の塀や垣根が城壁や濠に相当するという。ヨーロッパでいう公共の場は、全くの他人のものというよりも社交の場である。日本家屋の居間が街のレストランというわけだ。したがって、ヨーロッパ人は個人主義的であると同時に社交的であるという。日本人の生活様式がいくら西洋化しても家という概念がある以上、ヨーロッパ的になり得ないという。

風土という点から人間や文化を考察していくと非常に興味深い、たいへん面白い一冊。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク