坂本幸男・岩本裕訳注『法華経(下)』(ワイド版岩波文庫)、岩波書店、1991年
鳩摩羅什の漢訳と書き下し分、サンスクリット原典の口語訳。岩波文庫の下巻。
諸経の王というだけあり、良くできた書物だ。大乗仏教とそれまでの仏教教団の経緯、時代背景などを加味して読むと、「いかに法華経がありがたいか」というのをうまく伝える構成になっている。女人成仏などにみられる平等性も説かれ、出家信者だけでなく在家信者を含め、あるゆる人々に対して働きかける思想の転換も2000年の後世に今も読み継がれる所以になっているのだろう。
ところで、こういった経典は、「誰」がどのように書いたのだろう。一人でということは無いだろうが、数人なのか数十人なのかグループレベルか、組織レベルか、校正者はいたのか、どのように校正を受けるのか。意見が食い違った場合、どう修正されていくのか。どんな場所で書いたのか、文房具はどんなだったのか、一日どれくらいの時間書いていたのか。巨大な書物が書かれるとき、書物自体の歴史的思想的研究も重要だが、一人の人間が具体的にどのように書いていったのかにもとても興味を惹かれる。書物のもつ意味というのは、少なからず書いた本人の書き方やその時の感情や環境に左右されるところもあるだろうから。このあたりを調べてみるのも面白そうだ。
読書メモ
- 如来寿量品第十六 如来の寿命の長さ
釈尊が無限の寿命を持つ久遠の仏であり、良医病子のたとえで入滅も方便であると説く。 - 分別功徳品第十七 福徳の区分
仏寿の無量を理解することにより得られる功徳は大きく、この上ない覚りを得られる。 - 随喜功徳品第十八 心から帰依することの福徳についての解説
心から帰依することによって福徳を得られる。この功徳を積めば、顔が悪くならないらしい。 - 法師功徳品第十九 教えを説く者の受ける恩恵
教えを説く者は、全てを見ることができ、全ての音が聞こえ、なんでも嗅ぎ分け、美味を味わい、身も心も美しくなるという恩恵を受ける。 - 常不軽菩薩品第二十 常に軽蔑された男
常不軽菩薩(皆に軽蔑しないと言って、逆に石を投げつけられ軽蔑された菩薩)の話。常不軽菩薩は、釈尊自身であった。 - 如来神力品第二十一 如来の神通力の発揮
釈尊と多宝如来が舌を伸ばし光を発する神通力を見せる。 - 嘱累品第二十二 委任
法華経の流布を全ての求法者に委ねる。 - 薬王菩薩本事品第二十三 バイシャジヤ=ラージャの前世の因縁
宿王華菩薩に薬王菩薩について説明する。自分の肉体を捨てて供養する。 - 妙音菩薩品第二十四 ガドガダ=スヴァラ
妙音菩薩がやってくる。現一切色身三昧により様々なものに姿を変え法を説く。 - 観世音菩薩普門品第二十五 あらゆる方角に顔を向けたほとけ
観世音菩薩を念ずればあらゆる苦難から逃れることができる。 - 陀羅尼品第二十六 呪文
法華経を護持する人々を護る呪文が語られる。 - 妙荘厳王本事品第二十七 シュバ=ヴューハ王の前世の因縁
二人の王子(薬王・薬上菩薩)に神通力を見せられ改心した妙荘厳王は、雲雷音宿王華智多陀阿伽度・阿羅呵・三藐三仏陀にまみえ一家で出家する。 - 普賢菩薩勧発品第二十八 サマンタ=バドラの鼓舞
普賢菩薩は六本の牙を持つ白象に乗り、法華経を加護することを誓う。