長尾雅人編『世界の名著2 大乗仏典』、中央公論社、1967年
仕事が忙しかったのと、本を読むのに思いのほか時間がかかってしまったので、すっかりサイトの更新も間があいてしまった。仕事と言っても全くお金にならないのが痛いところなのだが。
自分の誕生日プレゼントにと、余っていたAmazonポイントで購入した本書である。もう古書しか残っていない。かなり読み応えのある、というか中盤以降は一読しただけでは(というか三度読み返しても)ほぼ理解できない内容である。数ある大乗仏典の中からよりすぐりに選別された10編が収録されており、まさに名著である。
寝る前に読んでいたのだが、これを読むとすぐに眠くなり、しかも朝までぐっすり眠れるという驚くべき効能があった。不眠の治療に続けていた投薬も今では必要なくなり、眠剤にも劣らない良薬といっても過言ではない。特に、4編目の廻諍論あたりから薬としての威力を発揮する。
仏教の思想と歴史
仏教思想の歴史と本書に収録されている仏典の解説である。解説なので理解もしやすく、幸先よく読み進められる。
金剛般若経
ここから仏典が始まる。「身体でもなく、身体でないのでもないから、身体と呼ばれる。」といったパラドキシカルなことば-空-が語られる。
維摩経
私の座右の書である維摩経である。我らがヴィマラキールティを敬しながら読む。
宝積経
大宝積経の中の迦葉品。世尊がカーシャパ(迦葉)に向けた説法。
論争の超越(廻諍論)
中観派ナーガルジュナ(龍樹)の著と言われる。実在論者への反論が語られている。このあたりからちょっと難しくなってくる。
明らかなことば(中論月称釈)
チャンドラキールティ(月称)による中論の注釈。「この世にことばがあるかぎり、実にいっさいは無であり、いかなるものも有ではない。」
知恵のともしび(中論清弁釈)
こちらは、バーヴァヴィヴェーカ(清弁)による中論の注釈。特に前半の自我の否定は難解で、一章読むごとに寝てしまうのでなかなか読み進められない。
存在の分析(倶舎論)
おなじみヴァスバンドゥ(世親)の倶舎論である。もはや博物学である。ダルマを事細かに分類していく。以前『仏教の思想2 存在の分析』を読んでいたので大枠理解できるが、翻訳とはいえ、いきなり原典にあたるともう意味不明であろう。
中正と両極端との弁別(中辺分別論)
瑜伽行唯識学派の基本的論書の一つ。マイトレーヤ(弥勒)かアサンガ(無著)の著。虚妄なる分別の相、空性などを説いているようだが、現状私の頭では理解不能。
二十詩篇の唯識論(唯識二十論)
ヴァスバンドゥ(世親)の著。唯識学派、瑜伽行派の基本哲学書の一つ。世界はすべて表像のみの観念であるということが、とても難しく書いてある。このころには本書の睡眠導入剤としての効用はMAXに達する。
認識と論理(タルカバーシャー)
モークシャーカラ・グプタ著。ダルマキールティ(法称)の認識と論理学が詳しく述べられている。結構長くて一章読めば朝までぐっすりだ。本当に最近では薬なしでよく眠れるようになった。ありがたやありがたや。
それにしても、インドの仏教僧は、かくも難しいことばかり考えておったとは。あと、壺と煙と火の例えがとても好きなようだ。