【書籍】仏教の思想5 絶対の真理<天台>

田村芳朗、梅原猛『仏教の思想5 絶対の真理<天台>』、第8版、角川ソフィア文庫、2008年


仏教の思想 5 絶対の真理<天台> (角川ソフィア文庫)

天台を語る上で二人の人物が登場する。一人は中国の天台智顗、もう一人は日本の最澄。

天台智顗はもともと梁の人であったが、陳、随へと二度の亡国を経験する。五時八教といわれる教相判釈により「華厳」「阿含」「方等(一般大乗経典)」「般若」「法華」と「法華経」を最高位につけた。華厳は無雑純一性を持ったもので、法華経は総合統一性をもち宇宙統一の真理とした。天台の歴史をみても、華厳と法華の対比が常に語られる。

法華経は鳩摩羅什の訳が有名だが、一乗妙法(宇宙の統一的真理)、久遠本仏(久遠の人格的生命)、菩薩行道(現実の人間活動)の三位一体で展開される。智顗はこの法華経に仏教の真理を見たということだろう。そうして、全ての存在を否定する空に対して、一旦は存在を肯定する仮に立ち返り、最終的に中をなすという三諦円融を説く。

また実践の方法として止観が用いられる。智顗は、四種三昧、二十五方便、十境、十乗観法などが説かれる「摩訶止観」を講義した。摩訶止観はぜひ読んでみたい。

天台の世界観としては、一念三千がある。これは一瞬の心の中に三千世界が含まれるということ。三千とは、六道+三乗+仏乗の十界に対して、それぞれ十界を宿しているという十界具足があり(10×10=100)、さらにそれぞれに十如是があり(100×10=1000)、そしてさらに三世間(五陰、衆生、国土)を持っている(1000×3=3000)ため三千世界となる。(十如是は羅什の法華経に出てくるが、もともと原典にはないようだ。)

その後、天台は原始天台復帰を望む山家派と、華厳に傾倒する山外派に分裂し、衰退していく。しかし、天台自体の系譜が途絶えるかと言えばそうではなく、異国の地日本で脈々と受け継がれることになる。

最澄は、この天台法華思想と華厳思想を結合し、仏教の一大総合体系を築いた。比叡山をベースとして、法華、華厳、禅、密教、浄土という一大仏教大学を体系付けることになる。最澄の生きた平安から新仏教が湧出する鎌倉時代にかけては、日本は未曾有の戦乱混迷時代であったらしい、逆に言えばそのような世の中であるからこそ、このような宗教観が形成されるとも言えるのではないだろうか。

日本天台を語る上でのキーワードは、「天台本覚思想」と「一向大乗戒壇設立」の二つである。天台本覚思想は、「生成消滅する現実世界こそが悟りの世界である」という絶対的一元論であり、法華経の性具説と華厳経の性起説を統合したものと言える。ただし、ともするとこの思想は、悪そのまま善、煩悩そのまま菩提という快楽肯定のニヒリズムに陥りやすく退落する傾向にあり、これを発展させて種々の鎌倉新仏教が誕生したようである。

もうひとつは、一向大乗戒壇設立である。最澄は南都六宗を厳しく批判し、受戒を受ける戒壇に新しく一向大乗戒壇を設立するために奔走した。この戒壇はインドにも中国にもない全く日本独自のものであったとのことだ。僧侶になるための受戒は、インドも中国もいわゆる小乗戒壇しかなく、日本でも南都六宗の戒壇に限られていた。しかし、新しい戒壇は、戒をさずけるための十人の僧侶は必要なく、仏によってのみでよいとする究極的なものであり、また戒自体も梵網経の十重戒をベースとするシンプルなものにしたという。当時の仏教僧たちはすでに腐敗しており、そのような仏教界を最澄は鋭く批判したようである。もっとも、本書によると最澄は大乗戒壇はすでに世界には存在しているものと勘違いしていたらしいとある。また、新しい戒壇の希求は、伝統的な戒壇の中にあって、大乗的には必然に起こったのではないかとも述べられている。インド仏教を原点にしたときに、日本独自なルールはよいのかどうかはわからないが、少なくともその後仏教が日本に根付き、今なお日本人の多くが無宗教だと思う程に浸透してしまったのは、ある意味最澄のおかげと言えるのではないかと思う。

そして、法華経の世界観も源氏物語をはじめ多くの芸術、文化に多大な影響を及ぼしたのも、天台智顗、最澄あってのものなのであろう。今一度この二人の伝記は詳しく学んでみたくなった。

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読書メモ

  • 法然:浄土念仏:相対的二元論(浄土と現実は別)
  • 親鸞:浄土教:絶対的一元論(相対の上の絶対)
  • 道元:絶対的一元論(不二一体)→座禅:相対的二元論(絶対の上の相対)
  • 日蓮:社会全体の救済(立正安国論):絶対的一元論(法然を批判)→晩年は絶対の上の相対
  • 天台の性悪説:仏も悪の性質(性悪)を持つが、悪の行為(修悪)はなく、悪を制御し衆生を救済している。
  • 第一期大乗経典:般若経、維摩経、法華経、華厳経
  • 第二期大乗経典:如来蔵経、不増不減経、大法鼓経、涅槃経
  • 釈迦の死後も釈迦の名で経典が作られる:インド人には歴史意識がない。キリスト教では考えられない。
  • 大乗仏教:形骸化した伝統仏教を否定、民衆に近づける仏教改新運動
  • 中国は老荘思想(虚無、空)により大乗を受け入れやすい文化があった
  • 法華経:3つの部分に分かれる
    1. 第一~九:比喩(形あるものを別の形で表現)
    2. 第十~二十二:空想力(形なきものを形あるもので表現)
    3. 第二十三~:法華礼賛
  • 化儀の四教:頓、漸、不定、秘密教
  • 化法の四教:蔵、通、別、円教
  • 南都仏教の戒壇:奈良東大寺、下野薬師寺、筑紫観世音寺のみ
  • 中国は天台の大乗戒壇を認めていなかった
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