増谷文雄、梅原猛『仏教の思想1 知恵と慈悲<ブッダ>』、角川書店、1968年
このシリーズの本は、第一部が仏教学者による論説、第二部が仏教学者と哲学者の対談、第三部が哲学者による論説の三部構成になっている。第一部では、テーマの詳細が概観でき、第三部では同じテーマを哲学者の観点で見ることができる面白い構成だ。
以前シリーズの2作目(アビダルマ)は読んだので、今回はシリーズ第一作のブッダを読む。
釈迦が悟ったものは実にシンプルなのだなと改めて思う。釈迦が悟った「縁起」は、「これがあるから、これがある」という単純明快な公式だ。そして「苦を滅す」というシンプルな目的にあてはめ、四諦とその実践である八正道を導きだしている。無常や無我も縁起のみかたを変えたものであるという。
死後の世界などといった形而上学的な問題については、釈迦は無記を貫いたという。いわゆるスピリチュアル的な感覚は全くなく、本書でいう「もっとも人間らしい好もしい人間の生き方を樹立することが、仏教の目指すものである」という主張に納得する。
釈迦の原初の主張はシンプルであったけれど、2500年の歴史を経た上で仏教は実に多様化していった。分派したり変遷した宗派などは教理教説が驚くほど異なるが、何かしらベースとなるシンプルさは内包しているような気がする。本書では、「仏教は大河のようなものである」という。異端を包容し、支流から流れ込み、また分岐して流れていく。ただ、どこをとっても一つの川であることに変わりはない。
第三部は、昨年亡くなった梅原猛氏により執筆されていて、面白い。イエス、ソクラテス、釈迦を「死」を軸に比較したり、「慈悲」についてキリスト教の「愛」と対比して論じている。キリスト教を痛烈に批判するのは、本書が仏教書であるからなのか。でも興味深い。