佐々木閑『仏教は宇宙をどう見たか アビダルマ仏教の科学的世界観』、化学同人、DOJIN選書050、2013年
仏教は宇宙をどう見たか: アビダルマ仏教の科学的世界観 (DOJIN文庫)
こちらも、佐々木閑先生のYouTubeを見ていて本書が出てきたので、読んでみた。佐々木先生は学生時代は化学を学んでおられた。私も物理分野のエンジニアでずっとやってきて、最近になって仏教学を学びはじめた。
仏教、とくに初期仏教の面白さは、神秘性や神などを”信じる”宗教ではないというところにある。この世の成り立ちを論理的に考察し、自分を苦しみから解放するには何をどうすればよいかが考え抜かれている。その中でも倶舎論で論じられるアビダルマの世界観は、科学をやってきた者にとっては、とても面白く感じられる。仏教学をやっている人の中に、意外に科学分野出身の人が多いのは、このせいかも知れない。
この世の中の構成要素(法)は、75に分類される。これがまた、事細かに分析され分類されている。もちろん、これらはいわゆる現代科学ではないので、なんでこういう分析が成り立つのかわからないところもあるけれど、さすがは情報処理分野に長けたインド人たちである。2,000年も昔からこういうことを考えていたとは、なんとも頭のよい人達だろう。
本書では、物質論、心、時間論、エネルギー、因果則といった章立てで進んでいる。別の書に曰く「唯識3年、倶舎8年」と言われるだけあって、倶舎論を理解するには膨大な時間がかかるようだが、本書ではエッセンスだけをまとめてとてもわかり易く、初期仏教の世界観を概観することができる。
読書メモ
- 倶舎論の目的「仏道修行者に正しい悟りへの道を指し示すこと」
- 極微=素粒子 四大種(地水火風)と所造色で構成
- 心=純粋な刺激の投影
- 心所=付随して起こる個人的な反応
- 心、心所は空間的にどこにあるか特定できない
- 仏教の目的=煩悩系心所の発生を永遠に断ち切る
- 私=ある程度の全体性を保持しながら刹那ごとの生滅を繰り返す要素の集合体
- 世親は三世実有を肯定していない→相続転変差別=カオス(初期値鋭敏性)
- 心不相応行法 物質、心、心所以外
- 六因・五果
- 色、根、心・心所すべてを「精神」と見るべき。西洋の物質・精神二元論とは違う